特性曲線法/多価性の発生

特性曲線の交差

非線形波動方程式

$$ \frac{\partial u}{\partial t} + c \frac{\partial u}{\partial x} = 0 \tag{1} $$

において,ある\( u \)の値を持つ点は,\( c(u) \)という速さで特性曲線に沿って伝わる.

もし,初期波形の中に速い\( c \)に対応する\( u \)が,遅い\( c \)に対応する\( u \)の後ろにあると,後ろから出発した早い特性曲線が前から出発した遅い特性曲線に追いついてしまうと,特性曲線が交差してしまう.

波形の急峻化と多価性の発生

例として,以下のような非線形波動方程式を考える.

$$ \frac{\partial u}{\partial t} + u \frac{\partial u}{\partial x} = 0  \tag{2} $$

初期条件は,以下の式で示す

$$ u_0 (x) = u(x,0) = \exp{(-x^2)} \tag{3} $$

これの波形とそれに対応する特性曲線を時々刻々追うと,下のようなムービーが作れる.

この時,異なる\( u \)を運ぶ特性曲線が時間経過とともに接近するので,波形が次第に急になり,ある時刻で微分係数が発散し,そのあとは多価関数になっている.これを多価性の発生という.

 

多価性の発生時刻の予測

多価性が発生する時刻は予測することができる.

そもそも,特性曲線が交差する条件は,\( c \)の初期分布を\( c_0(x) = c[u_0 (x)] \)と考えると,

「最初に\( x \)を出発する伝播速度\( c_0(x) \)の特性曲線が,そのすぐ前\( x + \Delta x \)から出発する伝播速度\( c_0(x + \Delta x) \)に追いつく」

というものなので,以下のように立式できる

$$ c_0 (x) > c_0 (x + \Delta x) \tag{4} $$

ここで,\( \Delta x \)は微小であるから,\( c_0(x + \Delta x) \)は一次近似的に以下のように示される.

$$ c_0 (x + \Delta x) \approx c_0 (x) + \frac{dc_0}{dx} \Delta x \tag{5} $$

よって両伝播速度の差は以下のように計算できる.

$$ c_0 (x + \Delta x) – c_0 (x) = \frac{dc_0}{dx} \Delta x \tag{6} $$

よって式(4)の条件から,

$$ \frac{dc_0}{dx} \lt 0 \tag{7} $$

が特性曲線が交差する条件(多価性の発生条件)となる.

続いて,この速度差(\( \Delta c \)とする)が\( t = 0 \)における両者の隔たり\( \Delta x \)が解消されるのに必要な時間は,

$$ \left|\frac{\Delta x}{\Delta c} \right| = \frac{1}{\left|\frac{dc_0}{dx} \right|} \tag{8} $$

で表されるから,波形のどこか一点で初めて特性曲線の交差が起こる時刻\( t_b \)は,

$$ t_b = \min \left( \frac{1}{\left|\frac{dc_0}{dx} \right|} \right) = \frac{1}{ \max \left( \left|\frac{dc_0}{dx} \right|  \right) } \tag{9} $$

で示される.

実際に,先ほどの例で確認すると,

$$ \frac{dc_0}{dx} = -2x \exp{(-x^2)} \tag{10}$$

であるので,\( x = 1/\sqrt{2} \)で

$$ \max \left( \left|\frac{dc_0}{dx} \right| \right) = \sqrt{2/e} \tag{11} $$

となるから,

$$ t_b = \sqrt{e/2} \tag{12}$$

となり,実際に動画を見ると,この時刻で微分係数が発散し,多価性が発生しているのがわかる.

 

多価性の解消

多価性が発生した場合,輸送される物理量が時空の一点において複数の値を持つため,これは物理的に許されない.こういった問題を解消するには,以下の2つのアプローチを使う.

  1. 支配方程式に不備があるということを認めて,式の導出過程を見直す.⇒バーガース方程式
  2. 多価性が発生していない部分にはそれなりの正当性があると仮定して,多価になっていない部分のみを採用し,多価になっている部分だけを適当な「不連続」で置き換える.⇒ショックのあてはめ

これらはまた今度まとめてみよう.

 

参考文献(より正確な記述はこちらを参照していただきたい)

  • 田中光宏 (2017).非線形波動の物理,森北出版